☆ ちょっとまじめに「手のしびれ」のはなし 手根管症候群⑤|おかだ整形外科 スポーツ・リハビリクリニック|久留米市の整形外科

〒830-0037福岡県久留米市諏訪野町2772-1
0942-36-7755
  • Instagram
ヘッダー画像

医療コラム

☆ ちょっとまじめに「手のしびれ」のはなし 手根管症候群⑤|おかだ整形外科 スポーツ・リハビリクリニック|久留米市の整形外科

☆ ちょっとまじめに「手のしびれ」のはなし 手根管症候群⑤

手のしびれ、つまみづらさ何とか治したい!治療法をおしえて! 

治療法 その1:保存療法

治療は症状が軽く発症から期間が短い場合は、手の使用の制限で手を安静にし、消炎鎮痛剤の内服を行います。手根管症候群の原因は手根管症候群②でもお話ししたように指を曲げる腱(屈筋腱)の腱鞘炎です。腱鞘炎が治まると腱の腫れが引いて腱が細くなりますので同じトンネル内にいる正中神経の圧迫が減り、しびれや麻痺が改善します。前に例えた様に、同じロープで電車ごっこする仲間を「おすもうさん」から「幼稚園の子ども」にかえてあげる治療をすると、自分に周囲からかかる「圧」が減ります。

腱の腫れを引かすためには

①腱を使わないようにする:指をあまりつかわず安静にする

②腱の炎症をおさえる薬を使う

の二通りあります。腱を完全に使わないようにするのは、人として生きている限り困難ですが、使用の頻度を減らしてあげることはできると思います。日中はお仕事で手を使い、スマホで指をつかい、家にかえってゲームをし、趣味のピアノをたくさん弾く。寝る前に編みかけのセーターを編んで寝る。こんなにずっと手を使い続けると間違いなく腱鞘炎になってしまいますが、ここまでしなくても、お仕事でいっぱい手を使う方は、自宅では手指をやすめてあげましょう。一日中指を使うのは避けた方が賢明です。

腱の炎症をとる薬は大きく分けて、内服と注射の二通りの投与方法があります。注射は、毎日自宅で自分にうつことはできませんので、簡単に投与する方法としてはお薬を内服得する方法がお手軽です。しかし内服したお薬は口から胃を通り、腸管から吸収されて血液中にのり、炎症が起きている腱の腱鞘に届いて炎症をとります。炎症を取るためには大量のお薬を腱に届かせたいですが、大量のお薬を腱に届かせるためには大量のお薬を内服する必要があります。大量のお薬を内服すると大量のお薬が胃や肝臓や腎臓に多くの負担をかけてしまいます。こうした理由で大量のお薬を内服することはできません。内服する量には限度があります。それでは大量のお薬を腱にとどけるにはどうしたらいいでしょうか?

それは注射針を使って直接腱の周りにお薬をまくことです。

手根管の狭いトンネルの中をねらって細い注射針をつかって強い炎症を抑えるお薬を注射します。注射に用いるお薬はステロイドといいます。ステロイドと聞くとものすごく怖いお薬の様に思っている方もいらっしゃると思います。それは一部正しくて、大量のステロイドを長期間、繰り返し使用すると大きな副作用が生じます。それはステロイドが効果を発揮するメカニズムに理由があります。炎症が生じている組織は、毛細血管(もうさいけっかん)が伸びてきていて血流が豊富となっています。ですから炎症が起きているところは血流が多くなっているため、赤くなって熱を持っているのです。ステロイドはこの血流が増えている部分の血流を強力に阻害(そがい)することで炎症を抑えます。この「強力に血流を阻害する」能力がいい方に働けば「強力に炎症を抑える」のですが、悪い方に働けば「正常な組織の必要な血流も大きくそがいしてしまう」ことにつながります。正常な組織の必要な血流を阻害すると、結果組織が大きく痛んでしまいます。ですから、ステロイドの使用には、使用する側の豊富な経験と知識が必要となります。

我々手外科専門医が所属する日本手外科学会では、10年ほど前まで「ステロイドの適正な有効量」に関して多くの研究がなされました。多くの先生方が検討されていたのが「患者さんをよくするのに充分な最もすくないステロイドの量はどれくらいか」という事に関する検証です。この時期の学会発表や論文を正しく勉強された先生方は決してステロイドを大量に使用することはせず、上手に使用されていらっしゃいます。

もう一つは注射の投与方法です。手根管というせまいトンネルの中にお薬を入れるのには解剖(かいぼう)の知識とテクニックが必要です。手の手術をたくさんしているとどこに腱や神経が走っているかおおよそ検討がつきます。しかし、万が一神経に針が刺さってしまおうものなら神経をおおきく痛めてしまいます。神経を治そうとしているのに神経を痛めてしまっては本末転倒です。神経損傷を防ぐ手立てとしてエコーと呼ばれる器械を使う方法があります。超音波検査機器のことです。エコーはわれわれ整形外科医に取っては聴診器(ちょうしんき)です。エコーをつかって神経がどこにあるのかを見極め、神経を丁寧によけて針をすすめてお薬をそっと注入します。充分に効く最低量のステロイドをそっと注入すると、軽傷の手根管症候群の方は、かなりの確率でしびれがよくなります。

 

今日のポイント

①手根管症候群の原因は腱鞘炎です。

②腱鞘炎をおさえる方法の一つは指の安静です。

③腱鞘炎を抑える方法のもう一つには薬の投与があります。

④薬の投与法は内服とステロイド注射があります。

⑤ステロイドの投与量と投与回数には注意が必要です。

⑥ステロイド注射はエコーを用いて神経を損傷しないように注入することが重要です。

⑦軽傷の手根管症候群の方にはステロイド注射がよく効きます。