☆ ちょっとまじめに「手のしびれ」のはなし 手根管症候群①
- 2022年11月14日
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手にしびれや痛み、使いにくさを生じる頻度の高い病気に「手根管(しゅこんかん)症候群」と「肘部(ちゅうぶ)管症候群」があります。しかし、頸椎(首)から来るしびれと考えられたり、放置されているケースも少なくありません。正しい診断と治療の大切さ、それぞれの特徴的な症状や自分でもできるチェック法などをご紹介したいと思います。
まず手根管症候群からお話ししたいと思います。
手根管症候群の症状は?
症状は、①「手のしびれ・感覚のにぶさ」と②「つまみのしづらさ」です。
建物には電気の配線が張り巡らされています。グレーのビニールコードの中に白のビニール電線と黒のビニール電線が入っているように、1つの神経の中には感覚神経線維と運動神経線維が走っています。
感覚神経の線維が圧迫されて麻痺が生じると「しびれ」「感覚がにぶい」が生じ、運動神経の線維が圧迫されると「運動のまひ」が生じます。
この配線が脇の部分から手先にむけてくだっていく途中で、それぞれの高さで支配する筋や皮膚の感覚支配エリアに途中で配線が出て行き、徐々に正中神経の束の中を走っている配線の数は減っていきます。
「手根管」の部分では、感覚線維は親指(母指)から薬指(環指)の親指側半分までの3本と薬指半分の手のひら側に伸び、運動線維は「母指球筋」と呼ばれる親指の付け根の筋肉に伸びていきます。母指球筋は親指がつまみをするときに必要な筋肉です。
したがって、手根管部分で正中神経が圧迫されると、
①親指、人差し指、中指、薬指の親指が半分の「しびれ」「感覚のにぶさ」
②母指球筋の「やせ」・運動麻痺⇒つまみのしづらさ
が生じるのです。
①しびれ・感覚のにぶさ
しびれ・痛みは、夜間・明け方に強く、症状がつよいため目が覚めてしまうという患者さんもいます。手を振ったり、指を曲げ伸ばしたりすると症状が和らぐのも特徴的です。雑誌の特集や整形外科の教科書でさえ間違った記述をしているものもありますが、手のひらの部分はしびれはありません。(手のひらの親指が半分にいく正中神経の枝は手根管の外を通って皮膚にむけて走行するので手根管症候群ではしびれが生じることはありませんので注意しましょう。)
また最も重要なポイントですが、薬指の小指が半分は「尺骨神経」という全く別の神経の支配エリアなので、ここも手根管症候群では決してしびれることはありません。逆に薬指の親指側と小指側で感覚の差がなく、両方ともしびれているのであれば、それは頸椎(首)からの神経の障害です。首からか末梢神経の問題なのかを区別する重要なポイントですので、ご自分でしびれている時にチェックしてきていただけると診断の重要な助けとなります。私が外来で診察するときには、この点を患者さんに説明して「しびれがつよく出ている時が一番診断しやすい時です!しびれている時に薬指の親指側半分と小指側半分の感覚の違いを自分で良く観察してくださいね!」とお伝えするようにしています。
②つまみのしづらさ
しかし、進行すると親指の付け根の膨らみ(母指球)の筋肉がやせて「猿手」と呼ばれる状態になります。図の赤で囲った部分がやせてへこんできます。
親指を他の指と向かい合う位置に運ぶ運動のことを対立運動といいます。親指は人差し指から小指と相対する位置まで指先が到達できるため、つまみ動作が可能となります。この対立動作ができなくなると右下写真のようにOKサインができなくなります。これをパーフェクトOサインといいます。この写真はHPに掲載する事をお許しいただいた私の患者さんの写真です。
同じ患者さんの右手と左手ですが、右手はOKサインが全くできなくなっています。この方はちょっと病状が進行しすぎていますが、ここまで麻痺が進行しなくても「ボタンを留める」「テーブル上の小銭を拾う」などの細かい物をつまむ動作がしづらくなります。
筋力の麻痺まで生じてしまうと回復が困難な方が増えてきます。なんとかしびれの症状が出始めた段階で受診いただけると回復に向かわせることが可能です。
「年をとるとこんなものだ」と思い込んで放置されている方も中にはみられます。
時期を逃さなければ治せますので、あきらめず早めの受診をお願いします!